「日本の青空」を観ました。今の憲法は1946年11月3日に公布され翌年1947年5月3日に施行されました。その憲法の出来上がるまでを映画化したものです。
よく言われるところの現憲法はGHQ(1945年から1952年までアメリカ政府が設置した対日占領政策の実施機関)から押し付けられたもの、だから改定が必要という論拠にもなっているこのポイントを真正面から描き出しているところがとても見ごたえがありました。現憲法は確かにGHQが中心になって施行にいたったことは間違いないのですが、そのGHQがたたき台にした草案が実は憲法学者の鈴木安蔵が中心になってつくられた憲法研究会の面々によるものだったということをこの映画は語っているわけです。
この押し付け憲法論は、実はなかなか改定を阻止する観点からいって軽視できない論点だと思います。現に映画の中でも安倍首相(今では前首相)が押し付けられたものであるということを強調し改定を促す場面が出てきます。押し付けられたから本来の日本人の日本人による日本人のための(どっかで聞いた言い回し)憲法をつくろうじゃないか!オー!ってな運びになるわけです。現憲法は良いのか?悪いのか?どこが悪いから変えろというのか?という論理展開ではなくて、押し付けられたからダメなんだというのが改定の根拠になっているわけです。ここの根底にはナショナリズムが見え隠れします。つまり、安倍晋三氏が好きな「戦後レジームからの脱却」とか「美しい国」といった国粋主義的な大和民族優位論です。しかし、この映画はそこのところを正面突破しているという点で、鮮やかというか小気味良いというか、深みを感じます。国の指針を創り上げるというロマン、もう絶対に戦争はしたくないという決意、文言を練っている場面などはとてもスリリングで心が躍りました。
いいものはいいのだ、誰がつくろうが、たとえ押し付けられようが、プロセスはあまり関係ないじゃないか・・・ということもできないわけではありません。しかし、とは言ってもねぇと釈然たる気分になれないというのが正直なところでした。でも、こうやって映画を観ると、実は明治以降の脈々たる歴史の中で勝ち取ってきた民主主義の萌芽をしっかりとつなぎ合わせて草案のエッセンスにしてきたのだということがわかり、へぇ、そうだったのー!という新鮮な驚きがあります。
それから、映画の中で“輔弼”(ほひつ)とか“畏れ多い”とかの文言が出てきて、アメリカ人たちが首をひねるシーンが出てきます。天皇主権と国民主権の選択の際のシーンでいかに日本人が天皇制にどっぷり浸かってるのかということを表現するところなんですね。面白いなぁと印象に残りました。輔弼というのを広辞苑で引いてみると①天使の政治をたすけること。また、その役。②明治憲法の観念で、天皇の行為としてなされ或いはなされざるべきことについて進言し、採納を泰請し、その全責任を負うこと。と出てきます。ま、裏を返せば、天皇は何をどれほど行ってもその責任を負わないってことですね。第2次世界大戦における昭和天皇裕仁がいい例でしょう。戦後の様々な感情がうごめく中での折衷案というか当時の日本人の感情を配慮しての憲法論議だったことがよくわかりました。
GHQがいかに日本の研究をしていたかということです。これはそのまま、在日米軍に受け継がれているだろうことは容易に想像がつきます。
どの時代にも民衆の立場にしっかりと立ち素晴らしい仕事を成し遂げた人がいるもんだなぁと思い、今を生きるわたしたちの任務は?と足元を見入ったしだいです。
監督・・・大澤豊
主な俳優・・・高橋和也、藤谷美紀、田丸麻紀、加藤剛、宍戸開
ナレーション・・・山本圭 123分
ですねー。
女性の参政権とか平等とかも描かれていて良かったですね。
投稿情報: 大村洋子 | 2007年10 月13日 (土) 11:22
本当に見ごたえのある映画でしたね。鈴木安蔵さんが、軍事条項をどうするかを悩み、連れ合いさんに相談して、空白にする場面、疎開先で見た「日本の青空」と同じ空白、そして、それを埋めた幣原首相の言葉。また、男女平等を書いたベアテ・シロタ・ゴードンさんが、泣きながら「日本の女性はこれを歓迎します」と言い切るシーンなど、本当に心躍る場面が続きました。
投稿情報: リコリス | 2007年10 月13日 (土) 09:54